巻取り中に空気が流入して巻取ロール内のウェブ間に空気層ができる。巻き込み初期における空気層厚みの計算式を紹介する。
理論における空気層の取り扱い
巻き込み初期と巻取り後の空気層の厚みに着目
理論では空気層の厚みを計算して巻取モデルに取り込む。
最外層での巻き取られるウェブとすでに巻かれたロールの間の空気層は、その箇所での空気圧と張力に起因した圧力がつりあう厚みになる。これを初期空気層厚みと呼ぶことにする。一方、巻取りが進むと巻取ロール内の半径方向応力は大きくなっていく。これと同時に空気層は圧縮とロール端面からの流出によって初期よりも薄くなっていく。
本技術情報では、初期空気層厚みの計算式について以下に紹介する。
ニップなしの中心駆動巻取の場合
搬送系におけるウェブ浮上量の予測モデルを適用
搬送されるウェブの背面と回転しているガイドロールの表面の動作によってウェブ/ガイドロール間に空気が同伴される。ウェブがガイドロールから浮上する量は、橋本氏が数値実験から定式化した次式1)によって予測できることが知られている。
数式の意味を文字にすると次のようになる。
このウェブの浮上量予測モデルは、そのまま巻取りの初期空気層厚みの計算に適用できる。初期空気層厚みは巻取ロール半径に比例し、また巻取速度が大きく、張力が低くなると空気層は厚くなることがこの予測モデルから理解できるであろう。なお、ニップなしの中心駆動巻取における初期空気層厚みは、おおむね1μm以上になることが多い。
ニップありの中心駆動巻取の場合
ニップロールによる空気排除効果を考慮した弾性流体潤滑(EHL)問題による数値実験公式を適用
ニップありの中心駆動巻取の場合、ニップロールと呼ばれる非駆動のフリーロールの押付け荷重(ニップ荷重)によって巻き込み空気を制限する。ニップロールと巻取ロールの間の初期空気層厚みは、このニップ荷重を考慮したEHL問題を解いて得られた数値実験公式によって計算できる。
数値実験公式のひとつがHamrock氏とDowson氏が提示したモデル2,3)であり、次式で表現される。
数式の意味を文字にすると次のようになる。
もうひとつの数値実験公式はChang氏が提示した次式のモデル4)である。
数式の意味を文字にすると次のようになる。
数値実験公式によれば、初期空気層厚みは巻取ロール半径に比例する、また巻取速度が大きく、ニップ荷重とヤング率が低くなると空気層は厚くなることが理解できるであろう。なお、ニップありの中心駆動巻取における初期空気層厚みは、おおむねサブミクロンのオーダーになることが多い。
参考文献
- Hashimoto, H., Trans. ASME. Journal of Tribology, Vol. 124, (1999), pp. 50-55.
- Hamrock, B.J. and Dowson, D., ASME Journal of Lubrication Technology, Vol. 100, No. 2, (1978), pp. 236-245.
- Taylor, R.M and Good, J.K, IWEB, (1997), pp. 189-203.
- Chang, Y.B., Chambers, F.W. and Shelton, J.J., ASME Journal of Tribology, Vol. 118, (1996), pp. 623-628.
関連ページ
巻き込み空気の巻取理論 – 概念と数値計算事例
ウェブハンドリングでの重要パラメータは張力と空気膜