トラブル対応で実践しているアプローチ方法、理論学習のメリット、生産現場で良好な関係をつくるコツを紹介します。
アプローチの方法
トラブルが発生した実物観察が最も重要であり、その次にトラブルの原因と結果の関係をロジカルに考えることがポイント
初めにトラブルが発生した実物を入念に観察すること、これが改善活動において最も重要です。しわが問題であれば発生した位置や程度、折れている方向を調べます。観察のあとは理論や現場経験をもとに原因を絞りこみ、ロジカルに説明できる原因と結果の関係の仮説をたてます。
次に生産現場での不安定要素を確認して現場と理論の乖離を把握します。確認項目は理論では想定していない状態です。例えば設定値と実力値がおおきく違わないか、ウェブが蛇行して搬送されていないか、巻取ロールが偏芯回転していないか。理想的な状態でかつ立てた仮説が成立するようであれば改善策を立案して効果検証に移ります。そうでなければ不安定要素を考慮した仮説を検討する、あるいは不安定要素を解消します。
なお実現象のすべてが青枠内で表現されるとすれば、理論で説明できることが半分、生産現場を観察して説明できることが半分、というのが経験上のイメージです。
トラブル改善へのアプローチには「ロジカルに説明できる原因と結果」がポイントです。これが不明確であると表面上の因果関係にとどまってしまい、その奥にある本質にたどり着けません。理論を学んでロジカルにトラブルを解釈できるスキルの価値は高い。対応できる幅は広がっていきます。
アプローチ方法として失敗した事例を紹介します。巻取ロールのコア近傍に しわ が発生して歩留まりが低すぎるという問題でした。関係者からの情報をもとに理論計算し、その結果から改善策を検討したのが間違っていました。原因は連続生産で巻取軸を切り替えるときの刃物の摩耗でした。うまく切れずにウェブが折れてコアに貼り付いたことが結果として表れた問題です。改善策は切れる刃物にかえることであり、これでトラブルを改善しました。理論を優先したために改善まで遠回りしてしまった事例です。
このような経験から肝に銘じているのは「正確な情報の取得と事実の把握」です。これができていないと原因の絞り込みをミスリードしてしまいます。そのため関係者からの情報は、入手段階ではあくまで参考情報としています。事実確認を進めながら自身が納得できるまで情報を精査し、総合的に判断するように心がけています。
技術者のスキルアップ
一人前の技術者に成長していくための近道を紹介
ウェブハンドリング理論で世界的権威として知られる東海大学の故・橋本巨 名誉教授は、「理論は過去に遡り、未来を見通すことができるため、トラブルの未然防止には必要不可欠である。」とたびたび話をされました。理論は科学的な法則によって構築されているため、個人の感覚ではなく客観的な判断に役立ちます。
その一方生産現場では理論で想定していない事実を発見できます。これが知見の拡大につながり、また、現場固有の特徴を把握できます。現場固有の特徴とは、例えば2台ある生産機が同じ仕様であっても仕上がりの品質が異なる、といった現場にいないと分からない事象です。
現場経験のある技術者が理論的観点を学んでいけば、日々の生産現場を見る目が変わっていくでしょう。理論学習と現場経験をともに重視すること、これが一人前の技術者に成長していくための近道です。
トラブル改善がうまくいくときの生産現場での状況
うまくいかない状況とうまくいく状況における特徴
うまくいかない状況は、技術者が理論を優先して生産現場を把握しきれていない場合で見受けられます。理論計算がいくら正しくても、実際の現象を正しく表現できているとは言い切れません。最悪の場合は理論に固執し、表面上の理解にとどまってトラブルを解決できず、結果として生産現場での信頼が得られません。これはお互いにとって不幸な状況です。
トラブル改善がうまくいく状況は、生産現場もよく理解している技術者が現場と一致団結してトラブル改善に向かっている場合で見受けられます。この状況をつくり出すためには理論学習での知識の習得、現場での観察や情報交換を継続していくこと大切です。トラブル改善に不可欠であり、トラブル改善の蓄積が信頼の獲得につながるでしょう。
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